
「株価が下がったらすぐに売られてしまうのでは……」「株主総会に来るのはいつも同じ顔ぶれで、なかなか関係が深まらない……」。IR・広報を担当していると、こうした悩みを抱えることもあるでしょう。
こうした課題を考えるうえで、近年注目されているのが「ファン株主」という考え方です。
ファン株主とは、単に株式を長く保有しているだけではなく、企業の理念や事業、将来性などに共感し、「応援したい」という気持ちを持って株式を保有する株主を指します。
本記事では、株主数や持株比率といった「株主構成の数値改善」ではなく、長期保有・企業への共感・応援意向といった「株主の質」に焦点を当てます。
ファン株主と安定株主・長期保有株主との違いから、ファン株主を育てるための具体的な施策、IR動画や株主コミュニティの活用方法まで、IR・広報担当者向けにわかりやすく解説します。
「ファン株主」とは?注目される理由
「ファン株主」とは、企業の理念や事業内容、商品・サービスなどに共感し、企業の成長を応援したいという意向を持って株式を保有する株主を指す考え方です。
一般的な投資判断では、業績や株価、配当などが重要な判断材料になります。一方、ファン株主はそれらに加えて、「この企業を応援したい」「この会社の成長を見届けたい」という企業への共感や愛着を持っている点が特徴です。
つまり、ファン株主づくりで重視したいのは、単純に株主の人数を増やすことではありません。
「なぜこの会社の株式を持ち続けたいと思うのか」という、株主と企業との関係性を深めることが重要になります。
そのためには、決算情報だけでなく、企業の考え方や事業の背景、働く人、商品・サービスへのこだわりなど、企業をより深く理解してもらえる情報を継続的に届けることが大切です。
「安定株主」「長期保有株主」とファン株主の違い
ファン株主と似た言葉に、「安定株主」や「長期保有株主」があります。
これらは重なる部分もありますが、着目するポイントが異なります。ファン株主を考える際は、それぞれの違いを理解しておくことが重要です。
- 安定株主:株式を安定的に保有している株主という観点から捉える考え方です。
- 長期保有株主:株式を保有している期間の長さに着目した分類です。
- ファン株主:企業への共感や愛着、応援したいという意向に着目した考え方です。
たとえば、長期間株式を保有しているからといって、必ずしも企業への強い共感があるとは限りません。
一方で、企業の理念や事業に共感している株主は、短期的な株価だけではなく、企業の中長期的な成長に関心を持つ可能性があります。
そのためファン株主づくりでは、保有期間だけを見るのではなく、企業への理解・共感・応援意向をどのように育てていくかがポイントになります。
ファン株主を増やすために重要な5つの施策
ファン株主を育てるには、一度情報を発信するだけでは十分ではありません。
企業を知る→理解する→共感する→応援したくなるという流れを意識し、継続的に接点をつくることが重要です。
ここでは、ファン株主づくりにつながる代表的な5つの施策を紹介します。
1. 経営者の想いや企業のストーリーを発信する
ファン株主を育てるうえで、まず重要なのが企業そのものへの理解を深めてもらうことです。
決算資料では業績や数値を伝えられますが、それだけでは「なぜこの事業を行っているのか」「どのような未来を目指しているのか」といった企業の背景まで伝えることが難しい場合があります。
そこで、経営者の考えや創業の背景、事業に対する想いなどを継続的に発信します。
企業の「数字」だけではなく、「なぜその事業を行っているのか」を伝えることが、共感を生む第一歩です。
とくに経営者自身の言葉で語ることで、企業の方向性や考え方をより具体的に伝えやすくなります。
2. IR動画で企業への理解を深める
企業の想いや事業の魅力を伝える方法として、IR動画も活用できます。
文章や決算資料では、情報を正確に伝えられる一方で、経営者の表情や話し方、事業現場の雰囲気などを伝えることは難しいでしょう。
動画であれば、経営者の言葉や社員の姿、事業の現場などを通じて、企業をより身近に感じてもらうことができます。
たとえば、以下のような動画が考えられます。
| 動画の種類 | 主な内容 | 目的 |
| 経営者メッセージ | 経営理念・成長戦略・今後の方向性 | 経営への理解を深める |
| 事業紹介動画 | 事業内容・サービス・強み | 事業への理解を促す |
| 社員・現場紹介 | 社員の仕事・製造現場・企業文化 | 企業への親近感を高める |
| 決算説明動画 | 業績・決算内容・今後の方針 | 業績への理解を深める |
動画制作が初めての場合は、まず動画制作の基本ガイドで制作の流れを確認しておくとよいでしょう。
また、伝えたい内容を整理する際は、映像制作の構成案の作り方も参考になります。
3. 株主が企業を「体験」できる機会をつくる
企業への共感を深めてもらうには、情報を受け取ってもらうだけでなく、実際に企業を身近に感じてもらう機会をつくることも重要です。
たとえば、自社製品を体験できる機会や工場見学、事業所見学、株主向けイベントなどが考えられます。
こうした施策では、単純に特典を提供するのではなく、「この会社をもっと知りたい」と思ってもらえる体験を設計することがポイントです。
事業の現場や社員の仕事を実際に見てもらうことで、IR資料だけでは伝わりにくい企業の魅力を知ってもらえる可能性があります。
その結果、企業への理解が深まり、応援したいという気持ちにつながることが期待できます。
4. 株主との継続的なコミュニケーションをつくる
ファン株主づくりでは、一方的な情報発信だけでなく、株主とのコミュニケーションも重要です。
たとえば、株主向けアンケートや説明会、オンラインイベントなどを通して、株主から意見や質問を受け取る機会を設けます。
企業から株主へ情報を届けるだけでなく、株主の声を企業側が知る仕組みをつくることで、継続的な関係を築きやすくなります。
オンラインコミュニティなどを活用する方法もありますが、運営する場合は継続的な体制を確保することが重要です。
- 継続して運営できる担当者・体制を確保する
- 投稿や問い合わせへの対応ルールを事前に決める
- 公開情報と非公開情報を適切に区別する
- 株主とのコミュニケーション方針を明確にする
コミュニティは、立ち上げること自体が目的ではありません。継続的に株主との関係を育てられる仕組みとして設計することが大切です。
5. 株主総会を「企業を知る機会」にする
株主総会も、ファン株主との関係を深める重要な接点です。
株主総会では業績や議案について説明するだけでなく、企業の現在や今後を知ってもらえる場として活用する方法があります。
たとえば、事業の成長過程や今後の取り組みをわかりやすく紹介したり、株主からの質問に丁寧に回答したりすることで、企業への理解を深めてもらいやすくなります。
「報告する場」から「企業への理解を深めてもらう場」へと考え方を広げることが、ファン株主づくりのポイントです。
ファン株主化施策を比較!効果と取り組みやすさ
ファン株主づくりの施策には、それぞれ特徴があります。重要なのは、短期的な成果だけではなく、株主との関係を継続的に深められるかという視点で施策を選ぶことです。
| 施策 | 共感形成 | 継続的な接点 | 取り組みやすさ |
| 経営者メッセージ | ◎ | ◯ | ◎ |
| IR動画 | ◎ | ◎ | ◯ |
| 株主向けイベント | ◎ | ◯ | △ |
| 株主コミュニティ | ◎ | ◎ | △ |
| 株主総会の充実 | ◯ | △ | ◯ |
このように、ファン株主づくりにはさまざまな方法があります。
たとえば、まず経営者メッセージやIR動画で企業への理解を深めてもらい、その後にイベントやコミュニティなどの接点につなげるといった組み合わせも考えられます。
ファン株主を育てるための情報発信のポイント
ファン株主を増やすためには、単に情報発信の回数を増やせばよいわけではありません。
重要なのは、株主が「この企業をもっと知りたい」「これからも応援したい」と思える情報を届けることです。
具体的には、次のような情報を意識するとよいでしょう。
- 企業が大切にしている理念や価値観
- 事業が生まれた背景やストーリー
- 今後の成長に向けた取り組み
- 商品・サービスが社会に提供している価値
- 経営者や社員の考え方
決算数値だけではなく、こうした情報を継続して発信することで、株主が企業を立体的に理解しやすくなります。
「業績を伝えるIR」から「企業そのものを理解してもらうIR」へ視点を広げることが、ファン株主づくりでは重要です。
IR動画をファン株主づくりに活用する方法
IR動画は、ファン株主づくりと相性のよい情報発信手段のひとつです。
たとえば、決算説明動画だけでなく、経営者インタビューや事業紹介、社員インタビューなどを組み合わせることで、企業について知るきっかけを増やせます。
特に動画では、経営者や社員の表情、声、事業現場の様子など、文章だけでは伝えにくい情報を届けられることがメリットです。
また、一度制作した動画をIRサイトや説明会、SNSなど複数の接点で活用することで、継続的な情報発信にもつなげられます。
短尺動画を活用して継続的な接点をつくる場合は、ショート動画マーケティングや縦型ショート動画の作り方も参考になります。
ファン株主づくりで注意したいポイント
ファン株主づくりは、企業への共感を促す施策だからこそ、発信内容や運用方法には注意が必要です。
短期的な成果だけを求めない
ファン株主は、短期間で一気に増やすというよりも、継続的な情報発信やコミュニケーションによって関係を育てていく考え方です。
「施策を実施したらすぐに長期保有につながる」と考えるのではなく、企業理解や共感が積み重なっていく過程を見ることが重要です。
企業の魅力を一方的に押し付けない
企業の魅力を伝えることは重要ですが、企業側が伝えたい情報だけを発信していては、株主が本当に知りたい情報とずれてしまう可能性があります。
株主アンケートや問い合わせ内容なども参考にしながら、株主がどのような情報を求めているのかを把握することが大切です。
継続できる仕組みをつくる
ファン株主づくりでは、一度だけ大規模なイベントを実施するよりも、無理なく継続できる接点をつくることが重要です。
たとえば、定期的な動画配信やニュースレター、株主向けイベントなど、自社のリソースに合った施策から始めるとよいでしょう。
よくある質問(FAQ)
ファン株主と長期保有株主は同じですか?
同じではありません。長期保有株主は「どのくらい長く保有しているか」という保有期間に着目します。一方、ファン株主は、企業への共感や愛着、応援したいという意向に着目する考え方です。
そのため、長期保有している株主が必ずしもファン株主とは限らず、両者は重なる場合もあれば異なる場合もあります。
ファン株主を増やすと何が期待できますか?
企業への理解や共感を持つ株主との関係を長期的に築きやすくなることが期待できます。
ただし、ファン株主を増やしたからといって、株価や株主数などの数値が直接改善するとは限りません。本記事では、あくまで株主の長期保有意向や共感、応援意向といった「株主の質」に焦点を当てています。
ファン株主を増やすには何から始めればよいですか?
まずは、自社が「どのような企業として理解されたいのか」を整理することから始めるとよいでしょう。
そのうえで、経営者メッセージや事業紹介、IR動画などを通じて、企業の理念や事業の魅力を継続的に発信する方法があります。
IR動画はファン株主づくりに効果がありますか?
IR動画は、経営者の考えや事業の背景、企業の雰囲気などを伝える手段として活用できます。
ただし、動画を公開するだけでファン株主が増えるわけではありません。IRサイトや説明会、イベントなど複数の接点と組み合わせ、継続的に企業への理解を深めてもらうことが重要です。
株主コミュニティを作ればファン株主が増えますか?
株主との双方向のコミュニケーションを生み出す手段のひとつとして活用できますが、コミュニティを作るだけでファン株主が増えるとは限りません。
継続的な運営や情報管理なども必要になるため、自社の運営体制や株主とのコミュニケーション方針を整理したうえで導入することが大切です。
まとめ
ファン株主とは、単に株式を長期間保有している株主ではなく、企業の理念や事業に共感し、「応援したい」という意向を持って株式を保有する株主という考え方です。
安定株主や長期保有株主と重なる部分もありますが、ファン株主づくりでは「どのくらい株式を持っているか」だけではなく、「なぜその企業を応援したいと思うのか」という株主との関係性を重視します。
そのためには、経営者の想いや企業のストーリーを発信すること、IR動画で事業への理解を深めてもらうこと、株主が企業を体験できる機会をつくること、継続的なコミュニケーションを行うことなどが重要です。
また、ファン株主づくりは短期的な施策ではなく、企業を知る→理解する→共感する→応援するという関係を少しずつ育てていく取り組みと考えることが大切です。
まずは自社の株主が「もっと知りたい」と感じる情報は何かを整理し、経営者メッセージや事業紹介、IR動画など、継続できる情報発信から始めてみてはいかがでしょうか。
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