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2015年12月21日

【連載 テレビとネットの狭間を走れ!第二回】ネットでのテレビ視聴は計測できるか?

境 治; コピーライター/メディアコンサルタント

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前回からスタートしたこの連載。第一回では、テレビの指標である視聴率の功罪について書いた。その続きとして、視聴率の課題はどう乗り越えられるか、いま行われている試みを紹介しよう。

先日、ある若者と話していた時、「テレビは持ってません」と彼が言うので、「じゃあテレビは観てないんだね」と言ったら「いえ、でもテレビは好きです。テレビ観てますから」と言われて大いに困惑した。

「だってテレビ持ってないんでしょ?」と聞くと、「ええ、テレビ持ってませんけど、テレビ観てます。『アメトーーク!』とか大好きです」と差し出したのはスマートフォンだった。

もちろんYouTubeなどで『アメトーーク!』を欠かさず観ているという話なのだが、彼が「テレビ観てます」と言いながらスマートフォンを見せたのが面白かった。彼にとって、スマートフォンはテレビでもあるのだろう。

テレビという言葉は、もともといい加減に使われてきて、テレビ局のこともテレビ番組のこともテレビ受像機のことも、我々は“テレビ”と呼んできた。でもいま、テレビ番組がネットで観られる状況の中、何がテレビかわからなくなっている。
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米国や英国、韓国など、海外では、テレビ局自身が番組をネットで配信している。これに対し日本のテレビ局はネット配信に消極的だった。そこにはいろんなハードルがあったからだ。

まず、社内の保守的な考え方。ほんの4、5年前までテレビ局では上層部ほど「ネットはテレビの敵だ!」と本気で言っていた。そこでの自分たちのビジネスの可能性を判断する前に、生理的感情を優先し、ネットへの門戸を閉ざしていた。

さらに、著作権と許諾の問題も立ちはだかっていた。日本の著作権の解釈は非常に保守的で、何をやるにしても主な関係者全員の許諾が必要になる。タレント事務所で、ネット配信に理解を示さないところも多かった。

そして最大の問題は音楽だった。放送では包括契約で個々の番組制作者は細かいことは気にせず使用できるため、海外の著名曲でも平気で使っている。ところが、これをネットで流す際には包括契約の範囲外なので、あらためてJASRACに申請したり、原盤権を持つ海外のレコード会社に使用料を払ったりしなくてはならない。

こうしたことが足かせになって、日本のテレビ局は番組をネットに出したくても出せない時代が続いた。

ただ、放っておくとYouTubeやDailyMotionに海賊映像がどんどんていってしまう。ちょっとした番組なら、放送後、誰かがYouTubeに動画をアップするのは当たり前になり、先の若者のようなテレビ視聴が常態化していた。

去年、日本テレビが見逃し配信サービスを立ち上げ、他のキー局も続いて、ドラマを中心に人気番組が、放送後一週間という制限があるが、ネット上で観られるようになった。

さらに10月26日にはTVerという、テレビ局の垣根を越えた共同での配信サービスもスタートし、いつのまにかテレビ番組が気軽にネットで視聴できるようになってきた。

Startup Stock Photos

実際、使ってみるととても便利なサービスだ。サービス立ち上げ後、三週間で100万ダウンロードを達成した。

こうなると、テレビ局の姿勢も一気に変わってくる。ネット配信にネガティブなことを言っていた人でさえ、身を乗り出しはじめた。ネット配信に躊躇していたタレント事務所もかなり態度が変わってきていると聞く。こうなると、一気に加速していきそうだ。

すると必要になるのは、視聴計測だ。放送における視聴率のような、広告取引の指標になりうる、ちゃんとした計測が求められる。

漠然と“再生数”だけを提示するのでは、YouTubeと変わらない。テレビの視聴率がそうであるように、どんな層がどこまでどれくらい見ているかをきちんと測ることで、まっとうな広告取引に活用できる情報にしていく必要がある。

日本のネット広告の価格水準は、どうやら低いらしい。動画広告も料金体系をひと回り上げていけないと、ジリ貧になりかねない。テレビ番組のネット配信は、そこに新たな風を吹かせる可能性を持っている。プレミアムコンテンツには、高額の広告費がつくと言われる。

テレビ番組につく広告は、これまでのネット上の動画広告より高く取引されるかもしれない。そのことがひいては、動画広告の水準全体を上げていく可能性は、かなり高いと思われる。

テレビ番組のネット配信、そしてその視聴計測は、大げさに言うと今後のネット上の広告取引全体をいい方向に導くかもしれないのだ。VIDEO SQUARE読者の皆さんも大いに注目すべき流れだと思う。

そこへタイミングよく発表されたのが、ビデオリサーチ社の「これからの視聴計測」だ。つい先週、12月8日、9日に彼らが開催したVR Forum2015で、まさにネットへの動画配信に対応した視聴計測の新方針が披露されたのだ。会場で大々的に投映されたのは、こんなチャートだった。
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正直これだけ見せられてもわかりにくいだろう。解説すると、まず視聴率の関東での調査母数をこれまでの600世帯から900世帯に増やす。それから、タイムシフト視聴も計測する。この2点の変更は来年10月の時点で行うそうだ。

さらに「ネットでの視聴計測については10月までに測定対象に加えてデータのあり方を検討する」としている。

持って回った言い方でほんとうにわかりにくいが、タイムシフトは10月から正式メニューに加えるが、ネットの計測はやり方を整えていく、ということ。

それくらいネット視聴の計測は困難でハードルが高い、ということだろう。

ネットでの調査が、どうしてそんなに難しいの?と言いたくなる人もいるだろうが、ここでは広告取引の指標が求められている。ただの調査とはちがうのだ。

そこで重要なのは“関係者が納得する”ことだ。ただ計測体制を整えるだけでなく、「こういうやり方で今後行きたいのですが、よろしいでしょうか?」と各テレビ局と広告代理店、そしてなんと言っても広告主企業が納得していないと、今後のビジネスの指標にはできないのだ。

ネットでの調査も合意するのは大変だろうが、その前にそもそも、タイムシフト視聴を計測してもそれが取引に反映できるかどうかも、これからの議論だろう。

言うまでもなく、いまやテレビ番組は録画して視聴することが非常に多い。テレビが好きな人ほど録画機を駆使し、とくにドラマファンは毎クール第一話を録画して、気になるものを再生して面白いと思ったものを継続して見ていく。もはや録画視聴はテレビの楽しみ方に組み込まれている。

テレビ局にとって厄介なのは、録画を再生する際にCMがスキップされてしまうことだ。タイムシフト視聴を計測したら、この番組はこんなにたくさん観られていることがわかりました!とスポンサーに言っても「そう、よかったね。でもCMはスキップされているんだろう?じゃあ広告費は上乗せしないからね」と言われると、ぐうの音も出ない。

ビデオリサーチ社はもちろん、そういうこともわかった上で、何か工夫したデータの出し方をするのだろうが、タイムシフト視聴のマネタイズは簡単な話ではないだろう。

米国では、実はすでにタイムシフト視聴も含めたデータが指標になっている。「C3」と呼ばれるのだが、放送後3日間の視聴をタイムシフトも合わせて計測した数値が使われているのだ。

C3のCはコマーシャルのC。つまり、CMが視聴された時間を、リアルタイムもタイムシフトも合わせて計測している。これならスポンサーも文句が出ない。

聞きかじった話だが、これには喧々諤々の議論があったそうだ。スポンサー側がある時「CMの時間になると視聴率はグッと下がるのだから、そこだけにお金を払いたい」と言い出し、テレビ局側は「録画した番組もある程度CMは見られているのだから、そこにもお金を払ってほしい」と応じた。ではどうするか。

ああでもない、こうでもないと議論していく中で出てきたのが「CMを見た時間だけを3日間カウントする」という案だった。これで決着できたのは、この時点で計測してみたら、いままでの指標の取引と金額がぴったり合ったからだったという。これはほんの偶然だが、“同じ金額で移行する”ことでお互いに納得できたのだ。

28/02/2013 Amsterdam Nederland: Beelden voor brochure en website van DSF Duisenberg school of finance.

同じ偶然が、日本でも起こるかはわからない。だがこういう、本音をぶつけ合う議論をするプロセスが不可欠なのだ。日本の広告業界はこれから、バトルを展開して新たなパラダイムを築けるか、それを避けてダダ下がりするだけかの瀬戸際にいる。その成り行きは、結果的に動画広告の将来にも影響するだろう。みんなで注目するべきテーマだと思う。

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