大ヒット動画を制作することが正義なのか? – ブランディングとその先にあるユーザーの消費行動を考える


企業の商品・サービスをより確度高く訴求させるために、有用な手段としてコンテンツマーケティングが叫ばれて久しいです。しかし、動画コンテンツを用いたブランディングを行う場合、単純に有名な人やモノを起用し、配信するだけで”何か起きる”と考える企業が多く存在します。

しかし、実際にブランディングを行う上で有名な人やモノに頼るだけでは何も起きず、商品やサービスをユーザーに訴求し、認知の獲得・購買への誘導を行う場合には”ストーリー”や”価値”が重要になります。そして、そのストーリーや価値というものをユーザー目線で一言にまとめると、「共感を得る」ということになります。

そこで、今回は自国民の心理的なストーリーを組み込み話題となった、タイの大手通信業者True Corporationの事例・モバイルキャリア「Truemove H」を紹介していきたいと思います。

今回紹介する動画の重要なポイントは以下になります。

1、視聴者が持つ宗教に対する信仰心という、心の深層部分から共感を得ている
2、自社サービスのユーザーへの訴求や動画内容との連動が弱い

人々の心の琴線はどこにあるのか

企業名:True Corporation
商品名:Truemove H
動画再生回数:約1740万再生(2014年9月時点)

タイ語で1700万回再生を突破し(非公式で翻訳された日本語verは17万再生)、世界中で非常に話題となった本動画。この動画が多くの人に受け入れられた理由として、「視聴者が持つ宗教に対する信仰心という、心の深層部分から共感を得ている」ということがあります。

この動画を理解するために必要な前提条件として、タイ国内では国民のほとんどが上座部仏教という仏教で占められています。そしてその中の教えのひとつとして「タムブン」もしくは「タンブン」というものがあり、これは一般的には「徳を積むこと」と言われています。

具体的に徳を積むということは、「生き物を助ける」「自分の大切なものや金品を貧しい者に与える」「寺院に寄付を行う」などが挙げられます。

こうして徳を積むことによって、より良い来世を送ることができると信じられているため、彼らはなにかを与えたり施すことが善という宗教観を持っているのです。そしてこの動画は最後に「与えることは最良のコミュニケーションである」と投げ掛けてきます。

つまり、人々と繋がりコミュニケーションを取ることがまさしくタムブンであると説いています。「私たちの企業は、私たちの根底にある宗教感に寄り添っている」ことを見せると同時に、「私たちのキャリアを使うことこそがタムブンでもあるのだ」と、この動画で伝えているのです。

人々にとって日頃大切にしていること、もしくは日々の中で少し薄らいでしまうもの。自分たちの根幹にあるものを激しく揺さぶり共感させる、企業ブランディングという点では非常に効果的な動画になって言えます。

話題を作るだけのただ感動的な動画ではダメ

truemove

動画の再生回数が約1740万再生と、非常に多くの方に見られているブランディング動画ですが、企業のマーケティング的視点から考えると完璧なわけではありません。それが2の「自社サービスのユーザーへの訴求や動画内容との連動が弱い」という点です。

Truemove Hはモバイルキャリアでありながら、本動画においては製品やサービス内容・その価格などについては一切表現されていません。そしてどこの企業の動画なのかも、最後の4秒を見ないとわかりません。

では、いったい視聴者はどうやってこの動画から「視聴者自身にとって製品・サービスの有益な情報」を直感的に得られるのでしょうか。

ストーリー展開や心情を際立たせるためのカメラワーク・ストーリーなど、非常に完成度の高い動画になっています。しかし、深く読み解いていかないと真意が伝わらない動画では、消費者の行動を促すことは難しいと思います。

そのため、視聴者の心を揺さぶるといったブランディング的な視点では本動画は成功していると言えますが、マーケティング的な視点で捉えると不完全な動画と言わざるを得ないでしょう。

終わりに

インターネットの発達により、「売り手」のみが専門知識と情報を有し、「買い手」はそれを知らないという「情報の非対象性」が解消されつつあります。情報格差がなくなったことでユーザーが賢くなり、従来のような商品・サービスをただ伝えるだけではユーザーの心は動かなくなりました

そういった状況を経て、現在では商品やサービスに対して、より”価値”や”ストーリー”を重要視するようになっています。ただ、ユーザーに対して訴求させるために価値やストーリーを重視し、心を震わせる感動的な動画を作ったり、商品やサービスの機能面や利点だけを伝えるだけではユーザーに響きません。

動画を制作する場合、各ユーザーのコンテクストを想定し、見えてくる共通項を活用した上でブランディングすることにより、ユーザーの心に響かせ、共感を得ることができます。

そして、ブランディングを含むマーケティング全体を考えた場合、ただ単に感動的なだけでなく、企業のサービスや製品を想起させ、行動を促すことも含めて動画展開にしていくことがこれからの時代、必要なのではないでしょうか。

(編集:サムライト)

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