アメリカでテレビ放送が始まったのは太平洋戦争まっただ中の1941年、日本では1953年にテレビ放送が開始されました。それ以来、約60年ほどの歴史をもつ日本のテレビCMは、数々の心に残る名作を生み出してきました。今後、新しいメディアであるネットでの動画を制作するにあたっても、このテレビCMの動画広告の歴史を振り返ることで、視聴者の心をつかむ重要なヒントが得られるでしょう。
● ストーリー性で視聴者の深い共感を呼ぶことがわかるサントリーオールドCM
● 時代を映す鏡として時代を生きる生活者の共感を引き起こすカップヌードル
ドラマの一部のような完成度のストーリー構成「サントリーオールドCM」
「商品名をひたすら連呼して名前を覚えてもらおう」というタイプの広告と正反対の位置にあるのが、このサントリーオールドの広告です。1分間のCMの中で初めてサントリーオールドが絵として登場するのは、動画の最後です。それまでは、ひたすらドラマのようなストーリーで視聴者を引きつけます。
一人娘の20代女性が、いかにも頑固親父の50代男性に、自分の結婚相手を紹介するという設定です。紹介された男性は、緊張しながらも娘さんと結婚したいという意思を父親に言葉少なく伝えます。父親は無言で部屋を立ち去って別室に向かいます。心配顔の娘が追いかけてきて「お父さん!!」と一言。父は背中越しに語りかけます。
重苦しい雰囲気を変えるのは、娘を振り返ってかすかに口元を緩めながらお父さんが口にする、「嫌なヤツなら一発殴れたのにな」という台詞です。
そしてサントリーオールドとグラスが3人の前に並べられ、依然として言葉少ないながらも3人の間に心の交流が生まれます。世代を超えて言葉はなくても心のつながりは確認できる、そんなメッセージが卓上に置かれたサントリーオールドボトルから自然と伝わってきます。
お母さんが登場しないのは死別したのでしょうか?それは分かりませんが、ウイスキーのCMとしては、50代の男性というそれまでの定番のターゲットだけでなく、若いカップルも対象としてきっちりと設定されているのが分かります。登場人物は言葉少ないがそれぞれ強い印象を視聴者に与えており、サントリーオールドのターゲットをしっかり抑えた上で、ウイスキーにより大切な時間を演出するウイスキーというブランドイメージを訴求しています。
いつの時代もその時代を映す鏡だったカップヌードルのCM
「カップヌードルのCMで印象に残っているものを一つ挙げてみてください」
もしこんな質問を、男女異なる世代に投げかけて時系列に並べたら、それがそのままカップヌードルのCMの歴史となるでしょう。カップヌードルのCMはそれくらい世代をまたがり、常に時代を映す鏡として受け入れられてきました。
1985年から1986年に放映された「パリ・ダカールラリー」編では「ハングリアン民族」というキャッチが印象に残り、ハウンドドッグのフォルティシモはこのCMによって大ブレイクしました。
1999年からは「20世紀カップヌードル」篇として、永瀬正敏が「ベルリンの壁崩壊」の現場、「スペースシャトル」の機内でカップヌードルを食べたり、ジョン・レノン、エルヴィス・プレスリー、ミハイル・ゴルバチョフ、カール・ルイス、王貞治らとデジタル合成で一緒にカップヌードルを食べるというシリーズが好評を博しました。
以後も、時代を映しながらインパクトあるCMづくりを続けています。カップヌードルの過去のCMは名作動画の宝庫だといえるでしょう。
まとめ
以上、テレビCMの名作CMを2社ピックアップして振り返ってみました。両商品とも商品の特性をうまくつかんで説明しています。サントリーはウイスキーという飲用シーンが限定されている商品。カップヌードルは誰でもどこでも食べることのできる商品という特性があります。このことから、サントリーはどういう時にどういう人が、ウイスキーを飲むのかを明確に伝えようとしています。これを踏まえ、サントリーCMでは一人娘が結婚相手を紹介しに来るという特別なシチュエーションを演出しています。カップヌードルはその時代ごとの多くの人の関心が集まるものに商品を乗せています。その結果、時代の潮流に商品の訴求を乗せて注目を集めようとしています。
ストーリー性のある内容でより視聴者に深い印象を与えるサントリーオールド、一見商品とは直接関係ないように見える部分から、その時代に生活する視聴者の共感を広く引き起こすカップヌードル。これは、インターネット時代の動画広告においても非常に参考になる手法だといえるでしょう。
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