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今や、あなたも私もブランドの顔になりえる時代に。ANA・コカコーラ事例に見る「自分たち」を正しく動かすためのブランドづくり
更新日2024年06月14日
公開日2016年06月29日
「自分たち」に働きかける意味
よい情報もわるい情報もあっという間に広まってしまう現代では、企業やブランドを代表しうる人間が仕事の上でどんな言動を行っているかは、実はブランディング上、非常に重要な課題です。
「企業やブランドを代表する」というのは、別にトップマネジメントだけの話ではありません。一人ひとりのお客様や生活者にとっては、ショップスタッフやカスタマーセンターの電話対応者も、その企業やブランドを代表している人物になりえます。
そういった「中の人」がお客様や生活者によいブランド体験をもたらすためには、ブランドや企業の理念や価値を理解したうえで、日々その内容に沿った適切な行動をとっているかが重要になります。ブランドや企業の内側の人々がその理念や価値観にのっとって適切に行動することで、そのブランドや企業を好むファン層を作っていく。その仕組み作りには、自社の理念や価値を深く理解し自分ごと化し、自分の仕事を誇れるものと思い、自律的に動こうとする気持ちを醸成する、いわゆるインナーブランディングという活動が必要になります。
もちろん、自社の従業員を動かすのであれば、ブラック企業ばりの恐怖訴求がベスト!規則やルールを細かく決めて、そこから逸脱したら罰を与えればOK!という考え方もありますね。
ただ、自社の価値を高めるためのブランドづくりに向けた従業員への働きかけの手法が「恐怖」の企業に、顧客の気持ちを動かすマーケティングやイノベーションができるのでしょうか?やはりインナーブランディングには「納得感や共感を高める」ということが欠かせないのではないでしょうか。
事例「あんしん、あったか、あかるく元気!」(ANA)
インナーブランディングの活動というのは外部からは見えにくいことが多いのですが、有名な事例としてはANAの「あんしん、あったか、あかるく元気!」があります。
ANAグループのサイトでは、この言葉はANAグループ全体の「行動指針」を包括する言葉として位置づけられ「ANAらしさとはなにかを探していた私たちがたどり着いた言葉であり、いつも変わらぬ心構えです。」と述べられています。
この「ANAらしさとはなにか」を表す言葉は、自社社員によるプロジェクトワークを行い、ANAらしい顧客サービスのあり方、ひいてはブランドのあり方を自分たち自身の力で考え抜いた結果生まれたものです。社長直轄のプロジェクトチームに多くの社員が参加し、ANAらしさについて徹底的に考えるプロセスを経て「あんしん、あったか、あかるく元気!」という言葉と、そこに含まれる考え方が決められたそうです。
この言葉はTV広告等での発信を通じて外側のブランドへの期待を高め「企業としてのブランド価値」を向上させるために使われただけでなく、自分たちらしさを定義づけ、よりよい仕事ができるようになるための「インナーブランディング」の言葉としても使われました。
社員一人ひとりがその仕事の中で「ANAらしさ」を発揮できるようになるため、社員の意思、スタンスを方向づける言葉として共有されることで、この言葉を自分ごととして実践する従業員によって顧客のよりよいブランド体験が作られていく。最終的にはそれがANAという企業に対する顧客満足度向上へと繋がっていったわけです。
インナーブランディングの実践に向けて
企業の大きさや資金力のあるなしに関わらず、働くメンバーの気持ちをひとつの方向にむけ、そこに所属することに価値を見出し、よりよい仕事をなしとげるマインドを作っていくことの価値は変わりません。
ANAの事例は、自分達自身の手で自分達らしさを見つめなおし再定義するという作業が、どのような企業であれ自社の価値を向上させていくための重要な仕事となりうる、ということを示唆しているように思います。弊社のようなマーケティング支援の会社に、そのような「価値の再定義」の依頼が入るのもよくあることです。
ですが実は、このようなインナーブランディングに向けた価値の再定義は、その先にある「浸透」こそが真の課題になることが多いのです。いかに共有され、記憶にとどめられ、自分ごと化されるか。それを全員に対ししっかりと行えるか。この「浸透」の過程こそ、本当に「自分たち」を動かすインナーブランディングとなるための鍵なのです。
たとえばかつて日本コカ・コーラで、インナーブランディングのツールとして「こころざし読本」というものが作られたことがあるそうです。これは同社の価値観である「ファン&エンターテインメント」を社内に浸透させるための本として社員全員に配布されたものですが、印刷物としてのポイントは『社員一人ひとりの名前が刻印され、自分だけの本になっていた』ということです。
ただの読み物ではなく、自分にとって大切なこととしてその内容を受けとめてもらうにはどうすればいいか、という観点からそのような形をとったそうです。従業員全員で共有してほしい価値を伝えていくために「自分だけの本」を作るというのは熟読と理解、そして自分ごと化を促す良いアイデアではないでしょうか。
「浸透」のヒントは身近なところにも
このような「強い伝え方」を実践していくにはどうすればいいのでしょうか。特に、新卒一括採用で中途社員はほとんどおらず、全社研修も定期的に行っています、といった企業でもない限り、全員へ均等に浸透活動を継続していくのはなかなかの難題です。
この場合、その企業らしさなどの共有価値が「なるべくわかりやすく、心に迫る形で、記憶に残る」コンテンツとなっているだけでなく、「いつでも手軽にふれることができる」コンテンツであることが重要になってきます。
たとえば既存の自社イントラネットと動画コンテンツを組み合わせると、距離や勤務時間帯、やりようによっては言語を越えても共有可能で、いつでもだれでも折にふれて閲覧できるようなコンテンツになります。なにより動画は、単なる印刷物よりもよりエモーショナルで、ヴィジュアル的な演出だけでなく生のコメントや音を有効に使い、印象と記憶に残るものとして活用・共有することが可能です。
また自社オフィスにつながる駅通路の交通広告に、インナーブランディング狙いの広告を出稿する、というような方法もあります。この方法は、毎朝仕事に向かうとき必ず目にするだけでなく、そのようなコンテンツが社外の人からも見られているという意識、緊張感を持つことができる良い手法です。
インナーブランディングの実践に向けては、その企業に合ったブランド価値、共有すべき理念を生み出すことが重要なのと同じくらい、その企業に合った「浸透」の仕組み作りが必要になります。どうすればその価値・理念が自社で働く人々の自分ごととなっていくのか、身近なインフラの有効活用も含めた浸透方法の検討が、成功する取り組みには必須になるのです。
松崎充克
株式会社インテグレート ストラテジックデザインラボ プランニングディレクター
外資系広告会社、国内大手広告会社、ブランドコンサルティング会社を経由し現職。
グローバル巨大企業のコーポレートブランディングからローカルな通販企業のダイレクトマーケティングまで、多種多様なクライアントの幅広い領域のマーケティングコミュニケーション業務を経験。データから読み解く人間行動と、ターゲットインサイトに刺さるテクノロジー活用、それらの統合として戦略的なデザインワークの実践が直近のテーマ。
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