違い語れないビールCM、差別化はターゲットのブレイクダウンで

今や、モノも情報も、世界中から集まってきている時代。一消費者としては選択肢が増えてうれしいですが、売る側としてはそうとも限りません。

市場も成熟し、商品やサービスがあふれている中では、なかなか独自性を打ち出すことが難しくなっています。

今回は、商品やサービス自体の独自性が弱いと感じた時、どうすれば動画広告で差別化できるかについて考えたいと思います。

マーケティングにおける差別化/独自性の重要性

そもそも、商品やサービスの独自性というのは、それほど重要なのでしょうか?消費者の購買活動の観点から考えると、答えが少し見えてきます。

2010年よりGoogleが提唱しているZMOT(ジーモット、Zero Moment of Truth)というコンセプトが、良い参考になります。ZMOTは簡単に言うと、「消費者は何かを買う前にインターネットで情報収集を行い、その情報が購買決定に大きな影響を与えている」という考えです。

実際、インターネットで検索すれば、価格や機能を簡単に比較できるサイトがたくさんあります。そして消費者は、その情報をもとに、商品やサービスを購入するかどうか判断しています。

つまり、価格や機能が比較されたときに、競合と差別化された強み(価格が安い、他にない機能がある、など)が重要になってくると考えられます。

これは経済産業省が実施した調査(※1)にも裏打ちされています。この調査によると、消費者は購入を決めるにあたり、「品質の良さ」「機能性の高さ」「デザインの良さ」など、商品やサービスそのものが持つ特性を重視しているとのことです。

動画広告においても、商品/サービスが持つ独自性を訴求していくことが基本であり、王道です。

※1 [参考]  経済産業省『生活者の感性価値と価格プレミアムに関する意識調査』

※1 [参考]  経済産業省『生活者の感性価値と価格プレミアムに関する意識調査』

ビールの味の違いが分かる人は20%以下

前述の通り、商品やサービスの持つ特性をアピールすることが動画広告の基本です。

しかし現実問題として、成熟した市場において、飛びぬけて差別化された特性をもった商品やサービスを供給し続けることは困難です。ビールを例にとってみましょう。

ビールといえば、「のどごし」「キレ」「コク」などが差別化のポイントになりそうな気がします。しかし、ある調査では、味の違いどころか、発泡酒との違いですら、分かると答えた人は全体の20%以下でした。

もちろんビール各社も、消費者が細かい味の違いが分からないという状況を考慮して、広告を打っているはずです。商品自体の特性で独自性を打ち出しにくい中、どのように差別化を図っているのでしょうか。

イメージに頼らざるを得ないTVCM

ここで、サントリーとキリンのフラッグシップ商品であるサントリープレミアムモルツ(以下、プレモル)と、キリン一番搾り(以下、一番搾り)のTVCMを見比べてみたいと思います。

プレモルも一番搾りも、味や香りなどの商品特性には、触れていません。

TVCMはリーチもターゲットの幅も広範にわたるため、余程の独自性がない限り、商品特性だけで競合との差別化を図るのは困難です。そのため、両社ともTVCM内では、起用するタレントに差別化の役割を負わせています。

プレミアムゾーンに属するプレモルは、「大人」で「成功者」のイメージのある矢沢永吉を起用することで、「大人が飲む特別なビール」というイメージを発信しています。一方、一番搾りは、「国民的」なアイドルグループ嵐を起用し、「老若男女が親しみやすいビール」を打ち出しています。

商品特性に触れず、イメージだけを打ち出しているので、プレモルが一番搾りに置き換わっても成り立ちます。それどころか、コーラやアイスクリームでも成り立ってしまうでしょう。商品と広告内容のつながりが弱いので、差別化としても、少し弱いものになってしまうのです。

それでも両社とも莫大な広告費を投下し、TVCMを繰り返し放送することで、「プレモル=矢沢永吉」「一番搾り=嵐」というイメージの差別化を何とか成立させているのが現状です。

効率的な差別化に必要なことは

ターゲットもリーチも幅が広いTVCMの場合、イメージによる差別化に頼らざるを得ませんでした。しかしこのやり方では、広告費がかさむ上、ターゲットに深く刺さる動画広告にはなりません。

では、商品自体の独自性が弱いと感じた時、どうすれば動画広告を使って、効率的に差別化を図れるのでしょうか?

一つの方法は、動画広告を出稿するにあたって、ターゲットをブレイクダウンすることです。

ビールの例で言えば、プレモルも一番搾りも、商品のターゲットは「20歳以上のお酒を飲める人全員」だと思います。そして、そのターゲット全員にリーチするために、TVというメディアに広告を投下しています。

ここで「20歳以上のお酒を飲める人全員」を、「ビールに詳しい人」、「ビールには詳しくないが、お酒は好きな人」、「仕事でお酒を飲む機会が多い人」などにブレイクダウンします。そして、それぞれのターゲットに合わせて広告を制作し、メディアを選定します。

そうすれば、「ビールに詳しい人」は味の違いも分かるでしょうから、メーカーがこだわり抜いた風味が商品の独自性としてターゲットに伝わるのです。

退屈でも訴求力のあるWeb動画

ここで、ターゲットをブレイクダウンし、特定層に刺さる動画を展開した事例をご紹介いたします。

これは、世界有数のカメラメーカーであるライカのWeb動画です。45分間ノーカットで、ひたすら職人がボディーを磨き上げる工程を映しています。カメラに興味ない人はもちろん、カメラ好きな人であっても、この動画を最後まで見続ける人は多くないでしょう。

では誰をターゲットにしているのかというと、動画のキャプションにも書かれている通り、「クラフトマンシップ(職人のこだわり)に価値を感じる人」です。

特に「カメラ好き」や「ライカ好き」の人でなかったとしても、「クラフトマンシップに価値を感じる人」であれば、動画を見てライカの並々ならぬ職人のこだわりに、独自性を感じるかもしれません。もしそういう人がカメラ購入を検討していれば、ライカに興味を持ってくれるでしょう。

もちろんライカは同時期に、もっとわかりやすい広告や販売イベントを開くなど、「カメラ好き」の人などをターゲットにしたプロモーションを行っています。

まさしく、ブレイクダウンされたターゲット、それぞれに効果的なアプローチを実施した好例と言えるでしょう。

まとめ

テレビが広告の中核を担っていた時代には、ターゲットを細かく切り分けることは困難でした。一つの広告表現で多くの人にリーチする必要があったからです。結果として商品特性とは関係ないイメージで、差別化を狙うしかありませんでした。

しかし、消費者の購買を促すには、商品の独自性をしっかりと伝えることが一番です。

Web広告が台頭してきている昨今、ターゲティングも、動画の尺も、自由度がぐっと上がっています。商品特性に魅力を感じてもらえる人がいるなら、しっかりと商品について語っていくことが重要です。

商品特性での差別化が難しいと感じた場合は、ターゲットをブレイクダウンすることを心がけてください。商品特性に魅力を感じてくれる人が見つかるはずです。
(文:Scott Nomura)

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